たとえば、こんな場面を考えてみてください。
売上は、前の年より少し増えています。ところが、月末に通帳を見ると、残高は増えるどころか減っています。そこへ、消費税の納付書が届きました。納める金額を見て、手元のお金で足りるかを、あわてて計算しはじめます。
売上があるのに、お金が残らない。どんぶり勘定のまま、お金の動きを見ていないと、こうなることがあります。この記事は、中小企業の経営者の方に向けて、どんぶり勘定から抜け出すために見る数字を書いた記事です。資金繰りが苦しくなるのは、業種そのものより、お金の流れの特徴で決まることが多い、と私たちは考えています。特徴は5つあります。見る数字は、資金繰り表(これから先の入出金の予定)と、案件ごとの粗利の2つで足ります。どちらも、いまお使いのエクセルやスプレッドシートで始められます。
目次
- 資金繰りの苦しさは、業種より「お金の流れ」で決まります
- 「うちもこれだ」と当てはまる、5つの特徴
- 見る数字は、2つに絞ります
- 見る数字を決めても、数字だけでは解決しないことがあります
- 最初の一歩は、資金繰り表を1枚書くことです
- よくある質問
- まとめ
資金繰りの苦しさは、業種より「お金の流れ」で決まります
資金繰りが悪くなったと答えた会社が多いのは、どんな会社でしょうか。数字で見ます。
日本政策金融公庫は、取引先のうち、従業者が20人未満(小売・飲食店宿泊業などは10人未満)の会社に、前の期と比べて資金繰りが良くなったか、悪くなったかを聞いています(全国中小企業動向調査・小企業編)。「良くなった」の割合から「悪くなった」の割合を引いた値を、資金繰りDIといいます。直近の3期(2025年10〜12月期から2026年4〜6月期)の平均を、図1に示します。
図1 前の期と比べて、資金繰りが「良くなった」と答えた会社の割合から、「悪くなった」と答えた会社の割合を引いた値の、直近3期の平均です。日本政策金融公庫の取引先のうち、従業者20人未満(小売・飲食店宿泊業などは10人未満)の会社が対象です。日本政策金融公庫総合研究所「全国中小企業動向調査(小企業編)2026年4-6月期」をもとに私たちが計算して作成
全体はマイナス22.1です。飲食店・宿泊はマイナス27.2、小売はマイナス26.4で、全体より低くなっています。建設はマイナス18.6で、全体ほど悪くはありません。
もうひとつ、会社の大きさも見ておきます。東京商工リサーチによると、2026年度の上半期(4〜9月)に倒産した会社(負債1,000万円以上)5,373件のうち、90.6%は従業員が10人未満でした。これは倒産した会社の内訳で、10人未満の会社が倒産しやすい、という意味ではありません。
業種の名前より、お金の流れのほうが、苦しさを決めているのではないか、と私たちは考えます。次の章で、その特徴を5つ挙げます。
「うちもこれだ」と当てはまる、5つの特徴
業種ごとの統計から、苦しさにつながる特徴を5つ取り出しました。特徴ごとに、見る数字を添えます。
特徴1:売上の3割近くが人件費なのに、人件費が上がっても、すぐには値段を変えられない
売上に占める人件費の割合は、全体で15.9%ですが、飲食・宿泊と運輸では3割近くになります(表1)。ただし、運輸の資金繰りは、公庫のアンケートでは全体ほど悪くありません。
| 業種 | 人件費の割合 |
|---|---|
| 全体 | 15.9% |
| 飲食・宿泊 | 28.8% |
| 運輸 | 29.0% |
表1 売上に占める人件費の割合です。中小企業庁「中小企業実態基本調査」(2025年調査・2024年度決算)の統計表をもとに私たちが計算して作成しました。人件費には福利厚生費と法定福利費が入っていないので、実際の負担はもう少し大きくなります
そのうえ、中小企業庁の2026年3月の調査では、上がった労務費のうち、値段に乗せられた割合の平均は、全体で50.0%、トラック運送で33.5%でした(会社同士の取引だけが対象です)。
人の手間(人件費)も原価に入れて、案件ごとの粗利を見ます。→ 見る数字:案件ごと(商品ごと)の粗利
特徴2:売上の6割以上が仕入れで、最後に残る利益が3%前後しかない
売上に占める仕入れ・材料の割合は、小売で6割台、卸売で8割近くです。経常利益の割合は、どちらも3%前後しかありません(表2)。仕入れ値が少し上がり、それを値段に乗せられないと、利益はすぐになくなります。ただし、卸売の資金繰りは、公庫のアンケートでは全体ほど悪くありません。
| 業種 | 仕入れ・材料の割合 | 経常利益の割合 |
|---|---|---|
| 小売 | 66.3% | 2.6% |
| 卸売 | 79.9% | 2.7% |
表2 どちらも売上に占める割合です。中小企業庁「中小企業実態基本調査」(2025年調査・2024年度決算)の統計表をもとに私たちが計算して作成
→ 見る数字:案件ごと(商品ごと)の粗利
特徴3:見積もりの段階で値段を決めて、本当の原価は、仕事が終わってから分かる
建設やリフォームのように、先に値段を決める仕事の特徴です。東京商工リサーチによると、2026年1〜9月の建築リフォーム工事業の倒産は96件で、統計を始めた2002年以降の1〜9月で最多でした(負債1,000万円以上)。同じ会社は、値引きの行き着く先は赤字受注だ、と指摘しています。国土交通省の建設工事費デフレーター(資材と人件費の値上がりを表す指数)で、リフォームを含む「建築補修」は、2021年1月の100.2から2026年6月の127.2へ、約27%上がっています(127.2÷100.2で計算しました)。
全建総連の2026年の工務店アンケート(回答した工務店1,609社の結果で、建設業全体の数字とは限りません)では、値上がり分を自社で負担している会社に理由を聞くと、「すでに見積書を出していたため」が65.1%でした(複数回答)。案件ごとの原価が見えていないと、赤字の仕事に気づきにくい、と推測されます(これを裏づけるデータは見つかっていません)。→ 見る数字:案件ごとの粗利
特徴4:材料や外注に払ってから、お客様のお金が入るまでに、1か月半以上かかる
売掛金と在庫の日数から、買掛金の日数を引いた「立て替えている期間の目安」を、中小企業実態基本調査から計算すると、全体で41日、製造業で63日です(年度末の残高から計算した目安です)。立て替え期間が長いと、売上が伸びたときや、仕入れ値が上がったときに、お金が足りなくなりやすい、と推測されます。ただし、製造業の資金繰りは、公庫のアンケートでは平均並みです。→ 見る数字:資金繰り表
特徴5:消費税や社会保険料を払う月に、口座の残高が大きく減る。または、納付を後回しにしたことがある
国税庁の「令和7年度租税滞納状況の概要」では、新たに発生した滞納額9,935億円のうち、消費税が5,172億円で、約52%を占めています(5,172÷9,935で計算しました)。消費税は、売上と一緒に受け取ったお金を、あとでまとめて納めるものなので、取り分けておかないと、運転資金に混ざりやすくなります。消費税の滞納がどの業種に多いかは、分かっていません。
東京商工リサーチによると、税金や社会保険料の滞納による倒産は、2026年度の上半期(4〜9月)に168件で、前の年の同じ期間の2倍(100.0%増)でした。→ 見る数字:資金繰り表
見る数字は、2つに絞ります
5つの特徴に対して、見る数字は2つです。資金繰り表と、案件ごとの粗利です。
1つ目は、資金繰り表(これから先の入出金の予定)です
資金繰りの改善は、資金繰り表を書くところから始まります。これから先の、お金が入る日と出る日を、1枚の表に並べます。どこまで先を見るかは、事業の仕組みによって変わります。仕入れや支払いから、お金が入るまでが長い事業は長めに、短い事業は短めに取ります。売上が立つ日ではなく、お金が入る日です。消費税や社会保険料の納付日は、先に入れておきます。足りなくなる月が見えたら、その月に手を打ちます。社会保険料が払えないときは、猶予(換価の猶予)を申請する制度もあります(日本年金機構)。エクセルでもスプレッドシートでも、始められます。
2つ目は、案件ごとの粗利(原価管理)です
1件の仕事ごとに、見積もりの金額と、実際にかかった原価を並べて、差を見ます。この差が、案件ごとの粗利です。事業によっては、その案件のためだけにかかった費用(変動費)を引いた限界利益で見るほうが合う場合もあります。どちらで見るかは、会社の事業に合わせて決めます。工事の仕事なら、工事ごとの原価管理です。1件ずつ見ていれば、「この仕事は、赤字だった」「この資材の単価を、見積もりに反映しよう」「ここまでなら、値引きに応じられる」が、数字で言えます。これも、1件を1行にした表で始められます。
作業の見つけ方と、表を作るときの入力の減らし方は、打たなくて済む入力を消す記事にあります。
見る数字を決めても、数字だけでは解決しないことがあります
すでに赤字が続いている、借入が重すぎる、値引きの要求や資材の値段そのものが厳しい、という悩みは、数字を見るだけでは解決しません。見る数字は、手を打つ時期を教えてくれますが、値上げ、借入の見直し(まずは金融機関や税理士のような専門家へ)、受ける仕事の選び方は、経営の判断です。
最初の一歩は、資金繰り表を1枚書くことです
最初の一歩は、1枚の紙で足ります。
- これから先の、お金が入る日と金額を、分かる範囲で書く(どこまで先を見るかは、事業によって変わります。まず数か月分から始めて、必要に応じて延ばします)
- お金が出る日と金額を書く。消費税・社会保険料・給与・仕入れ・返済を、先に入れる
- 月ごとに、「入る合計」から「出る合計」を引く
- 足りなくなる月があれば、その月に手を打つ案を考える
そのあとで、直近の仕事を1件選び、見積もりと実際の原価を並べて、粗利を出してみてください。
何から手をつければよいか迷うときは、無料相談で、いまの状況をお聞かせください。次に手をつける1つを、その場でお伝えします。
よくある質問
Q1. 黒字なのにお金が足りなくなる(黒字倒産)のは、なぜですか。
売上が立つ日と、お金が入る日が違うからです。仕入れや給与は先に出て、売上のお金は、あとから入ります。そのずれを、資金繰り表で見ます。
Q2. 税理士に頼んでいます。自分で見る必要はありますか。
税理士と一緒に、先の予定を作る形で始められます。決算書や試算表は、過ぎた期間の数字が中心なので、これから足りなくなる月を知るには、先の資金繰り表が要ります。
まとめ
売上があっても、お金は残らないことがあります。資金繰りの苦しさは、業種の名前より、お金の流れで決まることが多い、と私たちは考えています。見る数字は2つです。資金繰り表と、案件ごとの粗利です。どちらも、いまあるエクセルやスプレッドシートで、1枚から始められます。まず、資金繰り表を、1枚書いてみてください。
出典:日本政策金融公庫総合研究所「全国中小企業動向調査(小企業編)2026年4-6月期」/東京商工リサーチ「2026年度上半期(4-9月)の全国企業倒産」(2026年10月8日)・「『税金滞納』倒産」(2026年10月8日)・「建築リフォーム工事業の倒産」(2026年10月11日)/中小企業庁「中小企業実態基本調査(2025年調査)」「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」/国税庁「令和7年度租税滞納状況の概要」/国土交通省「建設工事費デフレーター」/全建総連「第6回工務店アンケート調査」(2026年6月)/日本年金機構「換価の猶予」