たとえば、こんな場面を考えてみてください。
売上は、ここ数年ほぼ横ばいで安定しています。ところが、辞めた人の補充で求人を出して2か月たっても、応募がほとんど来ません。来てくれた方の希望の時給は、いま働いているパートさんより高くなっていました。
これまでは、辞めた人の補充や忙しい時期の増員を、人を採って乗り切ってきました。今回は、そのやり方がいつものようには使えません。
この記事は、中小企業の経営者の方に向けて、人手不足と人件費の上昇に、人を増やすのではなく、業務改善とDXで対応する考え方を書いた記事です。採用だけに頼らずに、人手不足を解消する方法です。結論を先に言うと、私たちは「人を増やす前に、業務改善で手作業を減らす」ことを、最初に考えるべき判断だと考えています。
目次
- 人を増やす対応が難しくなった理由を、3つの数字で見ます
- 「人を増やす」を支えていた2つの前提が、揺らいでいます
- 業務改善で減らせるのは、人が判断していない手作業です
- 手作業を減らした会社の実例
- 業務改善で減らせない仕事もあります
- 最初の一歩は、募集を出す前の1回の書き出しです
- よくある質問
- まとめ
人を増やす対応が難しくなった理由を、3つの数字で見ます
1つ目は、最低賃金です。2026年度の地域別最低賃金は、全国の加重平均で1,177円になりました。前の年度から56円の引き上げで、引き上げ額は過去2番目の大きさです(1番は前の年度の66円)。発効は、10月1日から12月2日にかけて、都道府県ごとに順に進みます(労働政策研究・研修機構『ビジネス・レーバー・トレンド』2026年10月号)。
2つ目は、人手不足感です。日本銀行の短観(2026年9月調査・10月1日公表)には、雇用人員判断DIという指標があります。「過剰」と答えた会社の割合から「不足」と答えた会社の割合を引いた値で、マイナスが大きいほど、人手が足りない会社が多いことを表します。資本金2千万円以上1億円未満の「中小企業」の全産業では、6月調査の▲39から9月調査で▲42になり、3か月後の見通しは▲45です(資本金2千万円未満の会社は、この区分に入っていません)。
3つ目は、倒産の数字です。東京商工リサーチの2026年10月5日の発表によると、2026年度の上半期(4〜9月)に、「人手不足」を原因とする倒産は240件で、前の年の同じ期間より17.0%増え、2013年に調査を始めて以降、上半期としては最多でした。このうち「人件費の高騰」を原因とするものは130件で、前の年の同じ期間より75.6%増え、全体の54.1%を占めています(対象は負債1,000万円以上の倒産です)。
不安をあおるために、この数字を挙げているのではありません。人を増やす判断の前提が変わってきたことを、確かめるためです。
「人を増やす」を支えていた2つの前提が、揺らいでいます
人が足りなければ人を増やす。この判断は、これまで2つの前提の上に立っていました。1つ目は、人は採れること。2つ目は、いまいる人の分も含めた人件費が、売上の中に収まることです。
人手不足感が強まり続けていることは、1つ目の前提に関わります。最低賃金の引き上げと、人件費の高騰を原因とする倒産の増加は、2つ目の前提に関わります。
ここで、順番を変えます。人が足りないときに、まず「採用して、人件費を払う」のではなく、「いまの人数で回るように、業務改善とDXで手作業を減らす」ことを先に考えます。採用をやめる、という話ではありません。順番の話です。
業務改善で減らせるのは、人が判断していない手作業です
業務改善で減らすのは、人がやっている仕事のうち、人が判断していない手作業です。判断は、人に残します。
中小企業の現場でよく見かける手作業を、3つの型に分けます。
- 転記:表から表へ、紙から表へ、同じ内容を写している作業
- 集計:毎日・毎週・毎月、決まった形で数字を集めてまとめている作業
- 書類作成:毎月、決まった形の書類を、同じ材料から作っている作業
どれも、中身を考えているのではなく、決まった手順をなぞっています。ここが、自動化できる作業の探しどころです。
作業の見つけ方と書き出しの手順は、1人の退職で止まるものを探した記事に書いています。同じ内容を2回以上打っていないかを見る方法は、打たなくて済む入力を消す記事にあります。
自動化は、いまある表計算や、Google Apps Script(GAS)で組み立てることが多くあります。多くの場合、大きなシステムを新しく入れなくても始められます。
手作業を減らした会社の実例
実例を3つ挙げます。
冠婚葬祭業の会社が、毎日の転記をなくした話
冠婚葬祭業(北海道・社員30名規模)で、私たちが支援した事例です。式ごとの手配や仕入れの発注、スタッフの担当が、別々のExcelや紙で管理されていて、担当者が毎日、ファイルを見て転記していました。情報をGoogleスプレッドシートにまとめ、GASで転記と関係者への通知を自動にしました。毎日の転記作業はなくなり、経営者からは「転記作業がゼロになり、別の仕事に使えるようになりました」という声をいただいています(事例ページ)。
マーケティング支援会社が、毎朝の集計をなくした話
マーケティング支援会社(北海道・社員10名規模)で、私たちが支援した事例です。複数のクライアントの広告データを、毎日手でコピーして集計していました。広告のスクリプトで、毎朝、前日分が自動でスプレッドシートに出る形にしました。担当者の方の言葉では、「毎朝1時間かかっていたデータ集計が完全になくなり、分析と改善提案に時間を使えるようになった」とのことです(事例ページ)。
社長が自分で、毎月の書類作成を自動化した話
ある中小企業の社長が、noteに書いた実例です。技能実習生を受け入れている会社で、毎月、実習生の日報をもとに、技能実習の監理団体に出す書類を作る作業がありました。まとめてやると3時間ほどかかる作業です(社長の申告です)。社長は、AIを使って、日報から必要な情報を取り出し、書類を自動で作る仕組みを、1人で7時間ほどで作りました。毎月の初めに書類が自動でできあがり、事務の方は中身を確かめるだけになった、と書かれています。
この実例には、条件があります。この会社には、以前からオンラインの日報の仕組みがあり、15年分の実習日誌のデータがありました。社長自身が「このデータがあったから、実現できた」と書いています。毎月1回の作業が3時間なくなった話で、毎日の話ではありません。
3つの実例に共通するのは、人を増やしてその作業を回したのではないことです。業務改善と自動化で、手作業そのものを人の手から外しました。空いた時間は、中身を考える仕事に回っています。
業務改善で減らせない仕事もあります
手作業を減らしても、人にしかできない仕事は残ります。現場での判断、お客様との関係づくり、責任を持った決定です。どの仕事をAIに任せられるかの線引きは、人手不足時代の経営の記事で整理しています。
また、手作業を減らすだけで、賃上げのための原資が生まれるとは言えません。空いた時間を、売上や利益につながる仕事に回せるかどうかで、結果は変わります。価格に転嫁できない問題は、業務改善では解けないこともあります。減らせる手作業が少ない会社もあります。先に書き出して、確かめてみてください。
最初の一歩は、募集を出す前の1回の書き出しです
次の募集を出す前に、1回だけ書き出してみてください。
- 募集しようとしている仕事を、いまの担当者が1か月にやっている作業として、1枚の紙に書き出す
- そのうち、「判断」と「手作業」を分ける。判断は人に残す
- 手作業のうち、転記・集計・書類作成に当たるものを1つ選ぶ
- その1つが自動化できたら、募集する人数が変わるかを考える
1つ減らすだけで、募集の中身が変わることがあります。何から手をつければよいか迷うときは、無料相談で、いまの状況をお聞かせください。次に手をつける1つを、その場でお伝えします。
よくある質問
Q1. 採用そのものを、やめるべきですか。
やめる話ではありません。人にしかできない仕事には、人が要ります。順番の話で、人を増やす前に、減らせる手作業がないかを確かめます。
Q2. 業務改善で、人手はどのくらい減りますか。
人の数が減るとは限りません。会社ごとに違い、一般的な数字は示せません。実例の、社長が自分で自動化した会社では、社長の申告によると、毎月1回・3時間ほどの作業がなくなりました。まず、自社の作業を1つ書き出して確かめてください。
Q3. AIが無いと、自動化できませんか。
いいえ。転記や集計のように決まった手順の作業は、表計算とGASでも自動化できます。文章を作る作業などは、AIが役に立ちます。使い分けは、人手不足時代の経営の記事にあります。
Q4. 賃上げの余裕がありません。それでも、取り組めますか。
手作業を減らすと時間は空きますが、賃上げの原資になるかは、空いた時間の使い方で決まります。まず1つの作業で、空く時間がどのくらいかを確かめることから始められます。
まとめ
売上が安定していても、人を増やして乗り切る前提は、人手不足感の強まりと人件費の上昇で揺らいでいます。人を増やす前に、業務改善で手作業を減らす。転記・集計・書類作成のような、人が判断していない手作業を自動化し、いまの人数で回る形にします。実例では、毎日の転記、毎朝の集計、毎月の書類作成が、人の手から外れました。
減らせる手作業は、会社ごとに違います。次の募集を出す前に、いまの作業を1枚の紙に書き出して、1つ選んでみてください。
出典:労働政策研究・研修機構『ビジネス・レーバー・トレンド』2026年10月号/日本銀行「全国企業短期経済観測調査(2026年9月調査)」/東京商工リサーチ TSRデータインサイト(2026年10月5日)