毎月の集計に使っているExcelを作った担当者が、会社を辞めた。残されたファイルを開くと、シートがいくつも並び、ボタンを押すとマクロが動いて、数字が出てくる。数字は、毎月ちゃんと合っている。ただ、どこをどう計算しているのかは、いま社内のだれも説明できない。
作り直すしかないのか。それとも、このまま使い続けてよいのか。この記事は、前の担当者が作ったマクロが組まれたExcelやGASで動くGoogleスプレッドシートを引き継いだものの、中身が分からない、という場合にどのように対応すればいいのかについて書いた記事です。属人化を防ぐ方法ではなく、すでにそうなってしまった後に、何をどの順番で確かめるかをお伝えします。これから作る表の壊れ方と、その予防は、別の記事にまとめています。
目次
- 作り直す前に、手を止めて確かめる
- 確かめる順番は、5つあります
- 1. 動いているものの地図を作る
- 2. 同じ意味の値が、何か所に書かれているかを数える
- 3. 止める前に、どこからも使われていないことを確かめる
- 4. 移すときは、何が合えば合格かを、先に決める
- 5. 決まりは、手順書より表の側に寄せる
- 作り直すか、直して使い続けるか
- よくある質問
- まとめ
作り直す前に、手を止めて確かめる
属人化した表を前にすると、「全部作り直したほうが早い」と思いがちです。作り直すこと自体が悪いのではありません。ただ、中身が分からないまま作り直すと、前の表が人知れず担っていた処理が、新しい表では抜け落ちてしまいます。
前の担当者が悪いわけでも、いまの担当者の力が足りないわけでもありません。記録が残らない作りのまま、年月が経っただけの、仕組みの問題です。
だから、作り直すか直すかを決める前に、確かめる順番があります。前の担当者に連絡が取れない、または、取れても全体は説明してもらえない、という場合を前提にします。担当者に話してもらって手順書にする方法は別の記事に、会社としての属人化の見方は別の記事にまとめています。
確かめる順番は、5つあります
確かめる順番は、次の5つです。どれも、表を作り直す前にできることです。
- 動いているものの地図を作る。ファイル、シート、自動で動く処理を、一覧にします。
- 同じ意味の値が、何か所に書かれているかを数える。目ではなく、検索で数えます。
- 止める前に、どこからも使われていないことを確かめる。
- 移すときは、何が合えば合格かを、先に決める。件数や合計に加えて、主な行の中身も見比べます。
- 決まりは、手順書より、表の側に寄せる。
上から順に進めると、作り直す場合も、直して使い続ける場合も、土台がそろいます。
1. 動いているものの地図を作る
最初にやるのは、いま何があるかを、一覧にすることです。書き出すのは、次のものです。
- ファイルとシート。置き場所と、シートの名前。
- 自動で動く処理。マクロやGASのように、ボタンを押したときや、決まった時間に動く処理です。だれのアカウントで、いつ、どの間隔で動いているか。
- 入力の順番。どの表に先に打ち込み、どこへ移しているか。
- ほかの表との関係。どの表が、どの表の数字を使っているか。
自動で動く処理は、表を開いただけでは見えません。設定画面を見ないと、いつ動いているのかが分からないことがあります。ほかの人が設定した自動処理は、自分のアカウントからは見えないことがあります。前の担当者のアカウントで設定を確かめます。
私たちが、長年使われてきた顧客の台帳を、新しい管理ファイルへ移す準備をしたときも、その台帳には自動で動く処理が付いていました。ところが、だれのアカウントで、どの間隔で動いているのかは、記録のどこにもありませんでした。そこで、設定画面から、所有者、動かしている処理、動く間隔などを確認し、一覧を作成しました。
地図は、きれいに作る必要はありません。一覧にして、所有者の名前を書き込むだけで、次の確認がやりやすくなります。業務全体の一覧を作る方法は、業務棚卸しの記事にまとめています。
2. 同じ意味の値が、何か所に書かれているかを数える
同じ意味の値が、あちこちに書かれていることがあります。たとえば、単価、税率、集計する範囲の上限です。1か所を直したのに、ほかの場所は古いまま、という食い違いは、ここから起きます。
どこに何か所あるかは、目で追っても、全部は見つかりません。ファイル全体を検索の対象にして、見つかった場所を書き出して、数えます。
私たちが関わったある受注管理表では、単価が、計算式の中に直接書き込まれていました。一覧どうしの対応も、行の位置だけで保たれていました。集計の範囲の上限は、目で探しましたが、見つかったのはごく一部でした。そこで、ファイル全体をプログラムで検索して、まとめて直しました。
行の位置だけで対応させている表は、並べ替えるだけで、対応がずれてしまいます。そういう表を見つけたら、直す前に、その場所も一覧に足しておきます。
3. 止める前に、どこからも使われていないことを確かめる
使っていなさそうなシートや処理は、止めたくなります。ただ、見た目で判断して止めると、別の表がそのシートを見ていたときに、数字が合わなくなります。
止める前に、そのシートや処理が、ほかのどこからも参照されていないことを確かめます。ファイル全体でシートの名前を検索して、使っている式が見つからなければ、式からの参照はゼロです。マクロや自動処理が、そのシートを読んでいないかも、あわせて確かめます。ゼロと分かってから、止めます。
止めたあとも、すぐには消さず、読み取り専用にして残しておくと、戻したくなったときに戻せます。
4. 移すときは、何が合えば合格かを、先に決める
新しい表や管理ファイルへ移すときの合否は、「ちゃんと見えるか」では決められません。何が合えば合格なのかを、先に決めておきます。
何を合格とするかは、表によって違います。件数が合うか、合計が合うかは、確かめやすい基本ですが、それだけでは足りないことがあります。件数も合計も合っていて、中身が一部ずれていることがあるからです。主な行を抜き取って、新しいほうと古いほうで中身を見比べると、数字だけでは見えないずれが見つかります。
ずれが見つかったときは、全部を目で見るのではなく、ずれの原因を「型」に分けます。型が分かれば、型ごとにまとめて直せます。
私たちが、長年使われてきた顧客の台帳を新しい管理ファイルへ移す準備をしたときは、新旧の件数と合計に加えて、主なデータを抜き取って見比べ、ずれを型に分けてから直しました。古いファイルは、読み取り専用にする、という手順も決めています。
5. 決まりは、手順書より表の側に寄せる
「ここは触らないでください」と手順書に書いても、守られなくなる日は来ます。決まりは、手順書に書くより、表の側で守れる形にします。
たとえば、入力の形を決める、書式を固定する、範囲を固定する、といったことです。私たちが作成するファイルでは、間違いやすい入力欄を、注意書きではなく、書式で塞ぎます。
同じ意味の値が何か所にも書かれていると分かったときは、1か所にまとめる(マスタにする)ことを考えます。ただ、いきなり全部をまとめず、2回目の変更が必要になったときに検討する、という決め方もあります。まとめた先が、人が手で守る作りのままだと、見えない依存が増えるだけになるからです。
作り直すか、直して使い続けるか
5つの確認が済むと、残す、直す、止める、作り直す、のどれを選ぶかを、材料をもとに決められます。
- 残して使い続ける。地図ができ、同じ意味の値の場所が分かり、決まりを守る形がある。
- 直して使う。食い違いの型が分かり、直す場所を数えられている。
- 止める。どこからも参照されていないと確かめられた。止めたあとは、読み取り専用で残す。
- 作り直す。表の作りが、いまの業務に合わなくなっている。直す手間が、作り直す手間に近づいている。
作り直したほうがよい場合も、あります。ただ、5つの確認が済んでいれば、新しい表に引き継ぐもの(地図、値の場所、合格の条件、決まり)が、先にそろっています。作り直しの手戻りが、減ります。
こんな会社で、こう使える
- 前の担当者のExcelが、毎月の業務で使われている会社なら、まず1.の一覧だけを作る。書くのは、自動で動く処理の所有者と、動く間隔です。ここまでで、作り直す前に、何があるかが見えます。
- 単価や税率のように、変わる値が入っている表なら、ファイル全体を検索して、その値が何か所にあるかを数えてみる。数えた結果が、直す手間の目安になります。
- 古い表を止めたいときは、参照がゼロと確かめてから止め、読み取り専用で残す。
別々のExcelと紙を1か所にまとめ、転記をなくした事例は、事例ページにあります。
よくある質問
Q1. 前の担当者に聞けないときは、何から手をつけますか。
1.の地図づくりからです。聞けない前提で、表の中に残っているもの(シートの名前、式、設定の画面)を手がかりに、一覧を作ります。連絡が取れる場合も、「全部を説明してもらう」より、「地図の空欄を埋めてもらう」ほうが、相手の負担も軽くなります。
Q2. マクロ(VBA)とGASで、確かめる順番は違いますか。
順番は同じです。違うのは、自動処理が動いている場所を見る画面です。GASは、設定の画面で、所有者と動く間隔を確かめます。ほかの人が設定した自動処理は、自分のアカウントからは見えないことがあります。前の担当者のアカウントで設定を確かめます。マクロは、どの操作で動くのかを、ファイルを開いて確かめます。
Q3. 作り直すと決めたとき、いまの表は何を残しておけばよいですか。
1.の地図、2.で書き出した値の場所の一覧、4.の合格の条件です。古い表そのものは、読み取り専用にして残します。新しい表ができたあとに、これらと突き合わせることができます。
Q4. 外部に頼むのは、どの段階がよいですか。
地図と、値の場所の一覧があると、頼む範囲が決まります。DX Factoryの無料相談(30分)では、いまの表のどこから確かめるとよいか、次に手をつける1つを、その場でお伝えします。
まとめ
属人化したExcelやマクロは、作り直す前に、確かめる順番があります。動いているものの地図を作る。同じ意味の値を数える。止める前に、参照がゼロであることを確かめる。移すときは、何が合えば合格かを先に決める。決まりは、表の側に寄せる。この5つが済むと、残す、直す、止める、作り直す、のどれを選ぶ場合も、迷いが減ります。
この記事で紹介した確かめ方は、私たちが実際の案件で、中身の分からない表や自動処理に向き合ったときの進め方です。
いまの表を、どこから確かめればよいか迷ったら、無料相談で、いまの状況をお聞かせください。次に手をつける1つを、その場でお伝えします。
DX FactoryのDX支援については、DX支援のページでご紹介しています。