請求書に打った金額を、台帳にもう一度打ち込む。納品書の内容を、在庫表に書き写す。同じ数字を、1日に何度も打ち直していませんか。二重入力による間違いは、誰のミスでもありません。仕組みがそうさせています。そして二重入力は、手間が増えるだけではありません。同じ数字を打つ回数が増えるほど、どこかで打ち間違いが起き、数字が食い違うリスクも積み上がっていきます。この記事では、中小企業の二重入力をなくす3ステップを、スプレッドシート1枚から始められる形でお伝えします。先に結論をお伝えすると、RPAやAIで自動化するのは「最後」です。順番を間違えると、要らない作業を速くするだけで終わってしまいます。

目次

その作業、何回打っていますか

仕組み化の仕事を20年続けてきて、いちばん多く出会うムダの一つが、この二重入力です。やっかいなのは、やっている本人たちが「二重入力している」と気づいていないことです。

ある会社では、一件の受注情報が、こう流れていました。営業が受注を手書きの伝票に書く。事務がそれを見て会計ソフトに打ち込む。別の担当が在庫表に転記する。月末に、また別の人が集計表へ入力する。同じ受注の数字が、形を変えて4回打ち直されていました。

これは手間の問題だけではありません。打つ回数が増えるほど、そのどこかで打ち間違える可能性も増えていきます。受注表と請求書で金額が合わない、在庫の数が実際と違う。そうした食い違いの多くは、誰かの不注意というより、同じ数字を何度も打ち直す過程そのものが生んでいます。一度ずれると、どの数字が正しいのかを探すために、さらに時間がかかります。

それでも、誰も困っている顔をしていませんでした。なぜなら、一人ひとりは「自分が打つ1回」しか見ていないからです。全体を上から眺めて初めて、同じ数字が会社の中を何度も書き写されていることが見える。二重入力は、個人の不注意ではなく、見えていないことから生まれます。

なぜ二重入力は生まれるのか

二重入力が生まれる理由は、はっきりしています。部署やツールごとに、記録する場所が分かれているからです。

営業は自分のスプレッドシート、経理は会計ソフト、現場は手書きのノート。それぞれが「自分の場所」に記録します。そして、隣の人へ仕事を渡すたびに、相手の場所へ同じ情報を打ち直す。場所と場所がつながっていないので、人が手で橋渡しをするしかないのです。

これも、誰かがサボっているわけではありません。それぞれの担当が、自分の持ち場をきちんとこなした結果として、転記の鎖ができあがっています。だからこそ、人を責めても直りません。直すべきは、人ではなく流れの方です。この「人に張りついた作業を流れごと見直す」考え方は、「社長がいないと回らない」を終わらせる|中小企業の仕組み化はじめ方とも通じます。

3ステップで二重入力をなくす

では、どう直すか。大切なのは、手をつける順番です。

ステップ1:入力の地図を描く

まず、一つのデータが「どこで・何回」打たれているかを書き出します。たとえば「受注情報」を選び、それが営業の伝票、会計ソフト、在庫表、集計表と、どこを通っていくかを矢印でつないでみる。きれいな図でなくて構いません。これだけで、同じ数字が何回打ち直されているかが、初めて目に見えます。何から書き出すか迷うときは、中小企業のDX進め方|失敗を避ける業務棚卸し3ステップが地図づくりの参考になります。本コラムが扱うのは「一つのデータの流れ」ですが、業務全体を見渡して棚卸ししたいときは、そちらが守備範囲です。

ステップ2:入力元を一つに決める

次に、そのデータの「正」を一つに決めます。同じ受注情報なら、最初に入力する1か所だけを正式な記録とし、ほかはそこを参照する形にします。どこが大もとかを決めるだけで、「どれが正しい数字か分からない」という混乱が消えます。二重入力をなくす作業の、いちばんの肝はここです。

ステップ3:残りを自動化する

最後に、「正」から他の場所へ、データが自動で流れる形にします。スプレッドシートの参照機能でつなぐ、簡単なRPAを使う、AIに転記させる。手段はいろいろありますが、自動化はこのステップ3まで来て初めて出番が来ます。

自動化を先にやってはいけない理由

ここが、いちばんお伝えしたいところです。RPAやAIと聞くと、つい「まず転記を自動化しよう」と考えたくなります。けれど、その順番では失敗します。

要らない転記をそのまま自動化しても、二重入力の構造はまるごと残ったまま、ただ速くなるだけだからです。4か所に打っていたものが、4か所に自動で流れるようになるだけで、データが二重三重に散らばっている状態は変わりません。どこかで元の数字が変わったとき、どれが正しいのか分からなくなる危険も、そのまま残ります。

先に「正」を一つに決めて、打ち直しそのものを減らす。減らしたうえで、残った最小限を自動化する。ムダを高速化するのではなく、ムダを消してから速くする。この順番だけは、逆にしないでください。

中小企業ではこう使える

特別なシステムは要りません。いま使っているスプレッドシート1枚で始められます。

建設や工務店なら、見積・請求・入金の記録が別々の表に分かれていることがよくあります。これを「受注番号」でひもづけて一つの台帳にまとめると、同じ金額を何度も打ち直す手間が減ります。飲食店や小売店なら、予約・仕入れ・売上を別々のノートでつけているのを、1枚のシートに集約する。それだけで、月末の集計のために数字を拾い直す作業が、ぐっと軽くなります。

何から整理すればいいか迷ったときは、中小機構が運営する「省力化ナビ」のような公的な情報窓口も、考え方を整理する入口になります。まずは自社の流れを見渡すことから始めてみてください。

よくある質問

Q1. ツールを連携させれば、それで解決するのでは?

連携の前に「正」を一つ決めるのが先です。どこが大もとかを決めないままシステムをつなぐと、複数の場所で別々に更新が起きて、かえって「どれが正しいのか分からない」状態が増えます。決めてからつなぐ。順番が逆になると、二重入力が自動で増えていきます。

Q2. 人数の少ない会社でも、やる意味はありますか?

むしろ人数が少ない会社ほど効きます。一人が何役も兼ねている分、同じ人が同じ数字を何度も打ち直していることが多いからです。その時間が減れば、本来やるべき仕事に手が回ります。

Q3. どこから始めればいいですか?

いちばん多く打ち直しているデータを一つだけ選んでください。多くの場合、受注・顧客・在庫のどれかです。一つの流れで効果を実感してから、次の流れに広げるのが、続けやすいやり方です。属人化した作業を仕組みに変える具体例は、業務マニュアルをAIで作る|属人化を終わらせる3ステップも参考になります。

まとめ

二重入力は、誰かの不注意ではなく、記録する場所が分かれていることから生まれます。直す順番は、入力の地図を描く、入力元を一つに決める、残りを自動化する。RPAやAIの出番は、いちばん最後です。要らない打ち直しを減らしてから、残りを速くする。この順番を守るだけで、毎日くり返していた小さな手間と、そこに紛れ込む間違いが、静かに消えていきます。スプレッドシート1枚から、今日にでも始められます。

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